言葉を超えて:トレーナー平沼華凜が学習者に「気づき」を届ける理由

何かを「知っている」ことと、それが行動に変わるほど「わかっている」ことの間には、大きな隔たりがあります。敬語の決まりごとを調べることは誰でもできます。しかし、そのルールを知っていることと、実際の職場の会話の中で自然に使いこなせることは、まったく別の話です。COMASの日本語トレーナー、平沼華凜さんにとって、その二つの間にある空間こそが、トレーナーとしての仕事が始まる場所です。
「知識って、得やすい分、忘れやすいものでもあります」と華凛さんは言います。「私が提供したいのは気づきです。気づきというのはなかなか一人では得にくいですし、一度得たら、心にすごく残りやすいものだと思っていて。それを提供できることに、すごく価値があると感じています。」
目次
トレーナー紹介:平沼華凜
華凛さんが日本語トレーナーの道を歩み始めた背景には、ずっと抱き続けていた夢がありました。日本と世界を繋ぐ仕事がしたい、という思いです。大学時代からその夢を持ち続け、卒業後の1年目はインドネシアで働き、その思いを形にしようとしました。
しかし、コロナ禍で帰国を余儀なくされたとき、改めて自分のやりたいことを見つめ直します。個人にもっと直接貢献できる仕事、海外との繋がりを持てる仕事、自分の強みを活かせる仕事。その答えとして浮かんだのが、日本語教師という仕事でした。
「たぶん、そういった経験からスッと日本語を教えるということを思いついたのだと思います」と華凛さんは振り返ります。大学時代にフィリピンでインターンとして現地の子どもたちに日本語を教えた経験が、気づかないうちに根を張っていたのかもしれません。
トレーナーとなってからは、仕事で日本語を必要とするビジネスパーソン、日本文化への興味から学ぶ方、日本の大学への進学を目指す学習者、JLPTの試験対策に取り組む方など、さまざまな目標を持つ学習者と向き合ってきました。COMAS参画以前から、オンラインでのマンツーマンセッションを積み重ね、一人ひとりに合ったアプローチを自分なりに磨いてきた経緯もあります。
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COMASへ:すでに実践していた哲学に、居場所ができた
華凛さんがCOMASに出会ったとき、そこに感じたのは共鳴でした。
「COMASも学習者ファーストというか、オーダーメイドで一人ひとりに合ったセッションをする。そこに共感したのがCOMASにジョインした理由でもあります」と華凛さんは語ります。
COMASが華凛さんに新しい哲学を与えたわけではありません。すでに持っていた哲学に、ふさわしい場所を与えてくれた。それがCOMASとの出会いでした。
「寄り添い型」── 学習者が名付けたスタイル
華凛さんに指導スタイルを尋ねると、自分ではなく学習者が作った言葉が返ってきます。かつて担当した学習者から「華凛先生のスタイルは寄り添い型ですね」と言われたことがあり、その言葉が今も心に残っているといいます。
「トレーナーとしての視点ももちろん常に忘れずには持っていますが、自分の中で常に学習者視点というのも忘れずに、常に学習者の気持ちを考えて声がけや、レッスンの内容を考えているのが私のスタイルだと思っています」
そのスタイルの中心にあるのが、知識よりも気づきを届けるという意識的な選択です。語彙や文法の説明にも意味はありますが、華凛さんが最も大切にしているのは、教科書では得られないものです。
「知識は得やすい分、忘れやすいものでもあります。反対に気づきというのは、なかなか一人では得にくいけど一度得たら心にすごく残りやすいものだと思っています。それを提供できるということは、すごく価値があることだと、私自身思っています」
実際のセッションでは、ただ正解を伝えたり説明したりするだけでなく、学習者自身が何かを発見できるような声がけやフィードバックを心がけています。自分のコミュニケーションのくせや、詰まるポイント、アプローチを変えたときに起きる変化に気づいてもらうための問いかけです。
本当の課題を見つけ出す
ビジネスで日本語を使う学習者と向き合ってきた華凛さんは、上級レベルの学習者が直面する壁が、多くの人の想像とは異なることに気づいています。
「たぶん仕事でも日本語を使う学習者さんってレベルが高い方が多いんですけれど、その方々が直面している問題って、単語を知らないとか文法を知らないとかではなくて、『伝わらないこと』」と華凛さんは言います。
その「伝わらない」を解消するために、華凛さんはまず学習者の仕事を深く理解することから始めます。IT系の企業で働く学習者のケースなど、自分にとって馴染みのない業界であれば、事前に調べるのはもちろん、学習者自身の言葉で仕事内容を説明してもらうようにしています。
これは単なる語彙練習ではありません。まったく違う業界の人間にわかりやすく伝えるという過程で、相手を意識しながら情報を整理し、言語化するという、職場で日常的に求められる力を自然に鍛えることができるからです。
「自分で目の前の人のことを考えて整理して出すということが、学習者さんの悩みに直結する。伝わらないとか言えないみたいなことに直結するトレーニング方法の一つだと思うので、それをセッションの中で自然にやってもらうことも結構多かったりします」
また、学習者が日本語で説明した内容に華凛さんが純粋な驚きや感動で反応することで、学習者の自信が自然と育まれていくことも実感しているといいます。「私も純粋に違う業界の方のお話を聞くのがすごく楽しいですし、すごく発見とか驚きとかもあるので、純粋にすごいと感じるお話を聞いて、それがすごいストーンと自分の中に入ってきた時に結構素直にリアクションするので、多分そういうリアクションを見ると、学習者さんも日本語で自分の言葉で説明することにより自信を持ってくださるのだと思います」
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敬語の下にある層
ビジネス日本語を学ぶ学習者から最もよく聞く悩みの一つが敬語です。日本人でも難しいと感じるものを、外国籍のビジネスパーソンが身につけようとする難しさは想像に難くありません。
しかし華凛さんは、本当の課題は敬語そのものではないと考えています。
「敬語の後ろにある日本人の感覚的な物事の捉え方っていうのが一番課題としてあるのではないかなと思っています」
たとえば「うちと外」というコンセプト。社内では上司に敬語を使う一方、クライアントに対して自分の上司について話すときには敬称をつけない。そうした決まりごとは存在しますが、それを単なるルールとして覚えようとすると、すぐに壁にぶつかってしまいます。
「これをルールと思って学習しようとすると根が上がってしまうので、私がそういう学習者さんに会ったときには、そういったコンセプトや日本人の見えない部分の感覚みたいなものを伝えて、実際の例とかも使いながら体感してもらうようにしています」
ルールを暗記するのではなく、その背景にある感覚を体感として理解してもらうこと。それが華凛さんのアプローチです。
1ヶ月で変わった表情
華凛さんが特に印象に残っている学習者のエピソードがあります。JLPTのN3を持ち、文法・語彙の知識は十分にある学習者でしたが、「スピーキングが全然できない」という状態でセッションをスタートしました。
原因は完璧主義でした。話そうとする前に失敗を恐れて、言葉が出てくる前に諦めてしまう。その繰り返しでした。
「自信を持って、という声がけだけは、すごく無責任だなと私はトレーナーとしては思うので」と華凛さんは言います。
そこで華凛さんは別のアプローチを取りました。まず「あなたが言いたいことはこういう言い方ができますよ」という答えを最初に提示し、それを使ってしっかり話せるようになるまでセッションの中でトレーニングを重ねました。さらに、アウトプットに慣れるためのセルフスタディの方法も提案し、学習者もそれを素直に実践してくれました。
1ヶ月後、変化は言葉だけに留まりませんでした。
「1ヶ月経った時に日本語を使うこと、日本語で話すことをすごく楽しんでいることを学習者さんから直接言っていただいて」と華凛さんは振り返ります。「表情が明らかに1ヶ月で変わって、セッションをしていて印象的でした」
スキルの向上だけでなく、学習者自身のマインドセットが変わった瞬間に立ち会えたことが、トレーナーとしての喜びだったと華凛さんは言います。
互いに学び合うコミュニティ
マンツーマンのセッションを中心とする仕事は、ともすれば孤独になりがちですが、COMASのトレーナーコミュニティは、そこに横の繋がりをもたらしてくれる場所です。
「普段COMASでのお仕事は、トレーナーとしては学習者さんとの個別のセッションで、なかなか横の繋がりが見えなかったりとか、他のトレーナーがどのようにセッションしているか、なかなかわからないところがあります。それらをシェアする機会があることがとても貴重ですし、ありがたいです」
ベテランのトレーナーが定期的にトレーナーズミーティングを主催し、プレゼンテーションや知識の共有が行われています。カジュアルなオンラインの場では、日々の悩みを気軽に相談し合うこともできます。異なる強みや経験を持つ仲間から刺激を受けながら、自分自身も成長し続けられる環境が、COMASにはあります。
これからに向けて
華凛さんがトレーナーとして持ち続けているのは、目の前の学習者が持つ力を最大限に引き出したい、というシンプルな思いです。
「みんなでいいヒントを共有していきながら、COMASのトレーナーとしてもっと成長できるようなことに、何か貢献できたらいいなと思っています。本当に素敵なトレーナーさんたちがCOMASにはいらっしゃるので」と華凛さんは言います。
自分自身の経験を積み上げながら、同時にコミュニティ全体の成長にも貢献していくこと。それが、華凛さんのこれからの目標です。
学習者と企業へのメッセージ
日本語研修を始めたいと考えている個人や企業に向けて、華凛さんのメッセージはシンプルです。
「自分で独学で頑張ろうとせずに誰かの力を借りてください。それが一番いいと思います」
言語学習には、一人ひとり得意・不得意な分野があります。スピーキングは得意でもリーディングが苦手な方、インプットは問題ないのにアウトプットが難しい方など。個人の特性と目標に合わせて学習を進めることが、最も効果的な道です。
そして、学習に対する考え方そのものも変えてほしいと華凛さんは伝えます。
「言語学習は、ただ言葉を覚えるということだけではなくて、最終的にはコミュニケーションをするというところがゴールです。それって本当に勉強じゃないんですよね。トレーニングというか、一回勉強しておしまいというものではない。毎日、定期的にコツコツ積み上げていくものであるので、日本語学習に対して勉強と思わず、習慣にすると思って一歩踏み出してもらえたらいいんじゃないかなと思います」
COMASでは、華凛さんをはじめとするトレーナーが、その一歩を一緒に踏み出す準備をしています。知識を渡すだけでなく、気づきを届けながら、学習者が自分の言葉で日本語を話せる日を目指して。
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